祇園祭の粽(ちまき)とは
祇園祭の期間中に山鉾町で授与される粽は笹の葉で作られた厄病・災難除けのお守りのこと。
京都を歩いていると一般家庭の玄関やお店の前、会社の前などに吊り下げられているシーンをよく見かける。


粽の由来は、八坂神社の祭神である牛頭天王(素戔嗚尊と同一神とされる)が、旅先の道中でもてなしてくれた蘇民将来に対して、お礼として蘇民将来の末代まで守護すると約束する。
そこで目印として、蘇民一族は腰に茅の輪をつけることを要求。その後蘇民一族は疫病が流行った際も生き残り繁栄した、という話だ。
この時蘇民一族が腰に茅を束ねて巻いたものが「茅巻」となり、現在の粽(ちまき)として伝わっている。
上の写真で粽に「蘇民将来子孫也」という文字が書かれている護符がついているが、これは「蘇民将来の子孫です」という意味になり、牛頭天王に疫病や災いから守護してくださいと頼んでいるということである。
粽のご利益
粽には神社のお守りのように、山鉾にちなんだご利益がある。
もともと祇園祭の山鉾は、平安京に蔓延していた疫病や災いを鎮めるために、現在の神泉苑で鉾を建てる御霊会という儀式に由来する。
そのため全ての粽には厄除け・疫病除けとしてのご利益はあり、それに付随してそれぞれの山鉾に由来するご利益があるとされる。
例えば太子山という山は御祭神が聖徳太子であるため、知恵や学問にちなんだご利益がある。
祇園祭の山鉾は前祭と後祭で合計34基存在するのだが、それぞれの山鉾のご利益を見てみよう。
前祭
長刀鉾

前祭で一番最初に巡行する長刀鉾。
鉾先の長刀は疫病邪悪を祓う意味が込められていることから、厄除け・疫病除けのご利益がある。
※粽では一番人気が高いため購入に大行列が発生する
ご利益:厄除け・疫病除け
函谷鉾

鉾名の由来は、中国の孟嘗君が秦の国に追われて函谷関に差し掛かったとき家来に鶏の鳴き真似をさせて門を開かせ難を逃れたという故事に由来する。
ご利益:厄除け・疫病除け
月鉾

全山鉾で最も大きく・重い。
月読尊を祀っていることから月鉾と呼ばれている。
ご利益:厄除け・疫病除け
菊水鉾

町内の菊水井ゆかりの鉾で、菊水井は室町時代に千利休の師である武野紹鸚の茶亭にあったと言われている。菊水の名は中国の故事、「菊の葉より滴る露を飲み長寿を得た」に由来することから菊水鉾の粽には不老長寿と、室町時代にここは夷町という町名で夷社が祀られていたことから商売繁盛のご利益がある。
ご利益:不老長寿・商売繁盛
鶏鉾

天王座には航海の神である住吉明神が祀られている。
後方の重要文化財のタペストリーは16世紀のベルギー製で、叙事詩「イリアス」の一場面を描いたもの。
ご利益:厄除け・疫病除け
放下鉾

鉾先は「洲浜」とも言われており、日、月、星が下界を照らす光景を表現している。
真木中央の天王座と呼ばれる場所に「放下僧」という技芸に秀でた僧を祀っていることから芸事に関係が深い。
ご利益:厄除け・疫病除け
四条傘鉾

歴史は応仁の乱以前までさかのぼる。
御神体として使われる若松には赤松が使われる。
ご利益:招福・厄除け
綾傘鉾

傘を開いた形をしている。
巡行では棒振り囃子を演奏する。これには疫病退散の願いが込められている。
また、町内に鎮座する大原神社を会所としており、大原神社は縁結びの神として信仰されている。
ご利益:厄除け・縁結び
船鉾

前祭の一番最後に巡行する。
神功皇后の新羅遠征の際の出船に由来している。
御神体の神巧皇后は今では安産の神として信仰されている。
ご利益:安産
岩戸山

日本神話の天の岩戸に由来。
御神体は天照大神と手力雄尊、伊奘諾尊の三体。
伊奘諾尊は巡行時に屋根に乗る。御神体が屋根に乗るのは岩戸山が唯一。
ご利益:開運
山伏山

平安時代の浄蔵貴所が、八坂の塔の傾きを特殊な能力で元に戻したり、亡き父を蘇らせたという話が伝えられている。御神体の山伏は浄蔵貴所の姿。
山伏は山で修行する修験者でもあることから自然との関わりが深い。そのため雷除けのご利益があるとされる。
ご利益:雷除け・厄除け
孟宗山

別名で筍山とも呼ばれる。
中国の史話「二十四孝」由来で、親孝行の孟宗が病気の老母に好物の筍を食べさせたい一心で、真冬に筍を掘り当てた光景を表現している。
この逸話から親孝行のご利益があるとされる。
ご利益:親孝行
太子山

聖徳太子を祀る山で松ではなく杉を立てている。
四天王寺建立のため自ら杉の木を伐った話に由来する。
巡行には山の後に荷茶屋が続く。
聖徳太子にちなんで学問や知恵に関するご利益がある。
ご利益:知恵・学問成就・身代わり
郭巨山

中国の史話、「郭巨釜堀り」に基づいた山
老母と子供を養えなくなったため、子供を犠牲にするための穴を掘っていたところ黄金の釜が出てきたため救われるという話。
このことから金運のご利益がある。
ご利益:開運・金運
保昌山

和泉式部に恋した平井保昌が御所の紅梅を手折ってくる光景を表現している。
平井保昌は大江山で酒呑童子を退治したと伝えられている武将で御神体にも鎧がつけられている。
縁結びにご利益があり、女性に人気が高い。
ご利益:縁結び
油天神山

名前は油小路綾小路にある天神が由来。
天明の大火後に尽力した風早家伝来の天神像を御神体としている。
山の正面に鳥居、社殿に紅梅がある。
天神(菅原道真)に由来する山なので学問、道真の災いを鎮めることから厄除けのご利益がある。
ご利益:学問成就・厄除け
蟷螂山

屋根にかまきりを乗せていることから「かまきりやま」として親しまれている。
このかまきりは車輪に合わせて顔を傾けたり羽根を広げたりするからくりがある。
南北朝時代、公卿が足利軍に「蟷螂の斧」のような戦いを挑み戦死したことを恨み、1376年に公卿の御所車に蟷螂を乗せて巡行したことが始まりとされる。
ご利益:厄除け・疫病除け
伯牙山

琴の達人である伯牙が友人の死を嘆き、琴の弦を切って二度と琴を弾かなかったという中国の故事が由来。
伯牙が琴を壊そうとマサカリを手にしている光景を山で表現している。
琴の達人である伯牙んちなんで技芸向上のご利益がある。
ご利益:技芸向上・疫病除け
木賊山

難読漢字として有名な木賊山。
世阿弥作の謡曲「木賊」が由来で、さらわれた子が成長し、父親に会うため信濃へ行き、宿を借りるために話しかけた老人が実は父親で思わぬ再会をしたという話。
山では子をさらわれた老人が木賊を刈る光景を表現している。
ご利益:迷子防止・再会
霰天神山

504年から1520年の間に京都で大火事があった際、霰が降って火がおさまったことに由来する。
そのことからお守りは雷除け、火除けのものがある。
この山の町は大火の被害に一度も遭っていないと伝えられている。
ご利益:雷除け・火災除け
白楽天山

中国の詩人、白楽天が道林善禅師に仏法の大意を問う光景を表現している。
タペストリーはヨーロッパのものを何枚も飾り、前懸にはイリアスのトロイア戦争の場面をモチーフに、後方には北京の庭園が描かれている。学問に関するお守りが多い。
ご利益:学問成就・厄除け
芦刈山

世阿弥作と伝わる謡曲の「芦刈」が由来の山。
妻と離れた男が難波の浦で草を刈っていたところ、京都にでて裕福になった妻が戻ってきたという話が原作。
御神体の人形である男はまだ妻に会えず、芦を刈って苦労している時期の光景を表現している。
ご利益:夫婦円満・縁結び
占出山

日本書紀の神功皇后に物語に基づいている。
佐賀県唐津で鮎を釣って戦勝の兆しとした話を山で表現している。
釣りで占いをしていることから「占出山」となった。
ご利益:安産
後祭
橋弁慶山

くじとらずで、後祭の一番最初に巡行。
五条大橋での弁慶と牛若丸の戦いの光景を表現している。
懸装品には下鴨神社・上賀茂神社の葵祭の様子を描写したものがある。
ご利益:心身健康
北観音山

1353年に創設された当時は舁山だったが、曳山に変わったという経緯がある。
山に特有の松には尾長鳥が飾られている。
江戸時代から2014年までは鳩が飾られていたのだが、本当は1757年の記録の尾長鳥が正しいものであり、長い間勘違いをしていたらしい。
松は二本の松を「松取式」を経て南観音山と分けて使用している。
ご利益:厄除け・疫病除け
南観音山

宵山の深夜の「あばれ観音」で知られている。
御神体の楊柳観音と善財童子が新町通を3周回る儀式で、起源は不明。
ご利益:厄除け・疫病除け
大船鉾

1864年の蛤門の変で焼失し、長らく休み山となっていたが2014年に150年振りに復興。
くじ取らずで、後祭の最後尾を巡行する。
前祭の船鉾が神功皇后の新羅遠征の際の出陣で、後祭の大船鉾は戦に勝利した後の凱旋の姿を表している。
ご利益:安産
鷹山

江戸時代後期の1826年に暴風雨で山が壊れて以来、休み山となっていたが、2022年に196年振りに巡行に復帰。
御神体は鷹匠、犬飼、樽負で、中納言在原行平が光孝天皇の御幸で鷹狩りをする場面を表す。
ご利益:厄除け
役行者山

修験道の開祖である役行者をお祀りしている。
山には役行者、一言主神、葛城神の3体が祀られている。
巡行には聖護院の山伏が加わり、ほら貝と錫杖の音が響き渡る。
ご利益:安産・交通安全・疫病除け
鯉山

中国黄河の龍門の滝を鯉が登りきると龍になったという故事に基づいている。
滝の奥の神社には素戔嗚尊が祀られている。
ご利益:開運出世
八幡山

純金箔の祠を乗せて巡行する。
下京区にあった若宮八幡宮が東山五条に移された後に分詞したものと言われている。
山の上には八幡神の使い・鳩が2羽向かい合って飾られるが、鳩は番を違えないことから夫婦和合の象徴とされる。授与品にある鳩鈴は子供の夜泣き封として信仰を集めている。
ご利益:夫婦和合・子供の健康・夜泣き封じ
鈴鹿山

伊勢国鈴鹿山で悪鬼を退治した鈴鹿権現を御神体としている。
山の後ろには討ち取った鬼の首を象徴する赤熊、杉の木は鈴鹿の山を表現している。
巡行の後に真木の松に飾られた絵馬は「盗難除け」の御守りとして授与される。
ご利益:雷除け・盗難除け・安産
黒主山

謡曲「志賀」にちなんだ山で六歌仙の一人、大伴黒主が桜を見上げている姿を表現している。
ご利益:盗難除け
浄妙山

平家物語の橋合戦が由来。
宇治川の合戦で一来法師が三井寺の僧兵の頭上を飛び越えて敵陣に到達する瞬間を表現している。
飛び越えられた僧兵の名が筒井浄妙だったことから浄妙山になった。
ご利益:勝運